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水戸地方裁判所 昭和24年(ワ)160号 判決

原告 大神宮

被告 国 外一名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

第一当事者の申立

原告訴訟代理人は「茨城県那珂郡村松村大字村松字真砂山四番寺院境内地九反二畝十五歩の北端附近村道に接する箇所にある営林署設置の山一六号境界石を基点とし、同点より南五十四度十五分四十秒東径距二十二間九分二厘の地点を(イ)点とし、同点より北四十三度四十六分三十秒東径距四十間二分の地点を(ロ)点とし、同点より南四十三度二十二分四十秒東径距十七間九分の地点を(ハ)点とし、同点より南四十三度三十一分二十秒西径距三十九間九分の地点を(ニ)点とし、同点より北四十五度三十二分三十秒西径距六間一分七厘の地点を(ホノ一)点とし、同点より南三十八度四十四分三十秒西径距三間一分七厘の地点を(ホノ二)点とし、同点より南四十一度四十八分西径距三十七間一分五厘の地点を(ヘ)点と、し同点より南四十一度十分西径距四十五間八分五毛の地点を(ト)点とし、同点より南三十九度三十分西径距二十二間四分八厘の地点を(チ)点とし、同点より北五十一度五十四分西径距六間一分三厘の地点を(リ)点とし、同点より北三十九度三十五分二十秒東径距二十二間五分二厘の地点を(ヌ)点とし、同点より北四十一度二分五十秒東径距四十五間七分六厘五毛の地点を(ル)点とし、同点より北四十二度二十七分三十秒東径距四十一間一分の地点を(ヲ)点とし、同点より北四十四度十七分三十秒西径距六間三分五厘にして前記(イ)点に至る以上各点を順次連結した直線で囲まれた地域のうち別紙<省略>図面記載の赤斜線部分即ち同村大字村松字宿通七番地の一田口市太郎方居宅の東南隅を(わ)点とし、(チ)点より北二十一度五十六分西径距五間九分一厘の点を(り)点とし、同点より北四十二度三十七分四十秒東径距三十七間六分の点を(ぬ)点とし、同点より北三十九度二十四分東径距二十七間五分八厘の点を(るノ一)点とし、同点より北二十度三十三分二十秒西径距一間五分六厘の点を(るノ二)点とし、同点より北四十二度十五分二十秒東径距三十六間五分の点を(をノ一)点とし、同点より北九度二十五分四十秒東径距四間四分の点を(をノ二)点とし、右(わ)(り)(ぬ)(るノ一)(るノ二)(をノ一)(をノ二)点を順次連結した直線((り)(わ)線と(をノ一)(をノ二)線はそれぞれ(り)点(をノ一)点より下記の線に達するまでの一部)と前記(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)の各点を順次連結する直線によつて囲まれる地域につき原告が旧国有財産法第二十四条による使用権を有することを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求めた。

被告両名は「原告の請告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

第二当事者の主張

一、請求原因

(一)  原告及び被告虚空蔵はいずれも宗教法人である。

(二)  明治維新前より、原告は茨城県那珂郡村松村大村松字宿通一番四反七畝四歩(実測一四三一坪)を朱印地として朱印状によつてその収益権を確保せられてきたものであり、被告虚空蔵も字宿通八番四反九畝十七歩字真砂山四番九反二畝十五歩を朱印地としてその収益権を確保せられてきたものであるが、それが従来朱印地であつたため、維新後明治六年七月二十八日の太政官布告第二百七十二号地租改正条例にもとずく明治八年地租改正事務局議定地所処分仮規則及び明治九年三月二十九日地租改正事務局指令社寺境内地処分心得書によつて国有とされた。

(三)  かくして前記土地は国有となり、いわゆる上地せられたのであるが、同時にいずれも原告及び被告の境内地としてそれぞれ残され、そのうち原告の境内地たる宿通一番の土地は請求の趣旨記載の(イ)乃至(チ)の各点を順次に結び(イ)点に至る線によつて囲まれる地域として被告虚空蔵との間にも別段争はなかつたのである。

而して右上地区域については、上地当時茨城県において官有地台帳並びに附図を作成して右区域の境界を明確にし、これを保存しきたつたところ、その後被告境内地虚空蔵が原告境内地の使用権を侵害せんとするに至り、昭和二年原告の境界査定申出に対し、同年十月十一日茨城県は原告及びその氏子総代、被告虚空蔵及びその信徒総代、隣地所有者立会の上境界を明確にし、また昭和三年三月一日茨城県係員並びに太田税務署員立会の上右と同様に境界を明確にした。

(四)  而して大正十一年四月一日国有財産法が施行せられるや、同法第二条により原告の右境内地は第二種公用財産に、被告虚空蔵の境内地は第四種雑種財産に編入され、且つ同法第二十四条第一項により被告虚空蔵の境内地について無償貸付地たることが明確にされた。そして被告虚空蔵の境内地については、大正十一年勅令第十五号により、右同日その主務官庁は内務省より大蔵省に移管された。

(五)  また原告の境内地たる前記宿通一番の土地は、昭和二十一年勅令第七十一号により同令施行の日である昭和二十一年二月二日、現に国において神社の用に供する公用財産たる関係上、これを従前より引き続き神社(即ち原告)の用に供する雑種財産とみなされ、同時に国有財産法第二十四条の改正により寺院境内地と同様国から無償貸付を受けていることを明確にされることとなつたのである。(もつとも同地の使用については宿通八番との境界線附近において被告虚空蔵から記念碑等の設置により妨害を受けてはいるが、全体としては原告において従前通り引続き使用してきたのである。)同時にその主務官庁も内務省から大蔵省に移管された。

(六)  昭和二十二年法律第五十三号(昭和十四年法律第七十八号寺院等に無償にて貸付しある国有財産の処分に関する法律を改正する法律)の施行により、従来無償で神社寺院等が貸付を受けていた国有地たる境内地については、無償譲与または売払の申請をなしうることとなつたので、原告と被告虚空蔵とはそれぞれその境内地についていわゆる上地にかかるものとして法定の期間内は大蔵大臣宛無償譲与の申請をなした。右譲与申請に対する許否の処分は関東財務局長により昭和二十七年四月十五日なされ、原告は同年五月三日許可決定書の送達を受けた。右許可書によると請求の趣旨記載の(わ)(り)(ぬ)(るノ一)(るノ二)(をノ一)(をノ二)線と(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)線によつて囲まれる地域(以下係争地と称する)は譲与許可の範囲より除外されているが、原告は右処分に対し、同年六月二日附をもつて大蔵大臣に訴願を提起した。大蔵大臣は同年八月十三日附で訴願棄却の裁決をなし、裁決書謄本は同年九月二十三日原告に送達されたが、原告は法定の期間内に行政訴訟を提起し現に係属中であるから、原告の前記土地に対する無償貸付の関係は今なお存続しているものというべきである。

(七)1  ところで被告虚空蔵は、かねてより原告が国から無償貸付を受けている本件係争地に次第に侵入し、これを擅に使用するようになり、明治三十九年頃川崎某陸軍大尉の戦死記念碑を、大正七年頃平磯町海難供養碑を、大正十年頃石垣(玉垣)を、終戦直後石段等を設置し、原告の右地域に対する無償貸付による使用権を妨害するに至つた。

のみならず、昭和二十二年法律第五三号にもとずく譲与申請をするにあたり本件係争地が宿通八番真砂山四番の被告虚空蔵の境内地に含まれるものであるとしてこれが譲与申請をなした。

2  また、被告国は昭和二十四年四月七日附で関東甲信越財務局太田出張所長の名において右地域のうち(ル)(るノ二)(るノ一)の各点を順次連結した線のあたりから南方の部分は被告虚空蔵の境内地であつて原告の境内地ではないとの見解を表明し、爾来原告の境内地たること従つてまた原告が該地域について国の無償貸付にもとずく使用権を有することを否認しており、また原告の宿通一番の土地についての無償譲与申請に対し、国の機関たる関東財務局長は本件係争地の譲与を許さぬ旨決定したことは前記のとおりである。

(八)  以上の次第であるから、原告は被告両名に対し、請求の趣旨記載の係争地について原告が無償貸付にもとずき使用権を有することの確認を求めるため本訴に及んだものである。

二、答弁

(い)  被告国の答弁

(一) 原告主張の(一)の事実は認める。

(二) 原告主張の(二)の事実について、原告主張の各土地がそれぞれかつて朱印地であり、朱印地であつたことにもとずき明治八年地租改正事務局議定地所処分仮規則等により国有となつた点は否認する。これらの土地が国有となりすなわち上地されたことは争わないが、それは明治四年七月四日太政官達「神社録則制定ニ付境内区別方ノ件」及び明治六年八月八日太政官布告第二百九十一号にもとずくのである。

(三) 原告主張の(三)の事実は否認する。大正十年法律第四十三号国有財産法施行前には神社、寺院の境内地について国との間に明確な貸付の関係は認められていなかつた。被告虚空蔵の境内地が無償貸付されることとなつたのは右国有財産法施行の時からであり、原告の境内地については国有財産法が改正施行された昭和二十一年二月二日からであつて、同年勅令第七十一号にもとずくのである。而してその貸付の対象たる土地は茨城県備付官有台帳(乙第一号証)記載の土地でその区域は太田税務署備付土地台帳附図(乙第二号証)記載のとおりであつて、原告主張の(わ)(り)(ぬ)(るノ一)(るノ二)(をノ一)(をノ二)線と(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)線によつて囲まれる地域すなわち本件係争地はこれに含まれない。本件係争地は字真砂山四番字宿通八番の土地に含まれ、被告虚空蔵が上地したもので、同被告に無償貸付されてきたものである。

(四) 原告主張の(四)の事実について、主務官庁移管の点は認める。

(五) 原告主張の(五)の事実について、主務官庁移管の点は認めるが昭和二十一年勅令第七十一号により始めて無償貸付の関係が形成されたことは前叙の通りである。

(六) 原告主張の(六)の事実中本件係争地について、原告と国との間に無償貸付の関係がかつて存し、且つ存続しているという点は否認するが、その余は凡て認める。

(七) 原告主張の(七)1の事実中前段については被告虚空蔵が本件係争地の一部に原告主張の工作物を設置した点は不知、後段は認める。同2の事実は知らない。

(八) ところで、旧国有財産法の第二十四条第一項の規定は、昭和二十二年法律第五十三号第九条の規定によつて削除され、旧国有財産法第二十四条による無償貸付の制度は、右昭和二十二年法律第五十三号が施行された昭和二十二年五月二日かぎり廃止されたのである。ただ同法第十条第三項の規定により、同法第一条第一項、第二条第一項または第五条第一項の規定にもとずき譲与または売払をすることに決定したものについては、国有財産法第二十四条の規定はその譲与または売払の日までなおその効力を有するものとされた結果、これに該当する土地にかぎり、右一定の期間なお無償貸付の取扱を受けることになつたのである。

そして原告及び被告虚空蔵は、原告主張のとおりそれぞれ本件係争地その他の譲与申請をしたが、本件係争地については関東財務局長において、原告の申請を容認せずこれを却下し、かえつて被告虚空蔵に対しこれを譲与することを許可した。その処分に関する書面は原告主張の日時それぞれ原告及び被告虚空蔵に送達された。被告虚空蔵に譲与された本件係争地は、従来被告虚空蔵が上地し、旧国有財産法によつて無償貸付を受けていた真砂山四番宿通八番の土地として、その譲与がなされたのであつて、係争地の一部についてのみは宿通八番の一なる地番を付し、且つ本件訴訟において原告が上地したことが確認されたときはその譲与を取り消すものとする旨の条件附で譲与されたものである。だから右の無条件で被告虚空蔵に譲与された部分については勿論のこと条件附で被告虚空蔵に譲与された部分についても、その譲与処分が取り消されるまでは被告虚突蔵が譲与を受けた土地であることにかわりがないのであつて、いずれにしても、係争地は現在被告虚空蔵の所有地であり、被告国はその所有者ではない。してみれば、仮に本件係争地が被告虚空蔵が上地したものでなく原告の上地したものであり、且つ原告と被告国との間に無償貸付の関係が存したとしても、それは前記譲与の処分に関する書面が原告及び被告虚空蔵に送達された昭和二十七年五月三日かぎり消滅し原告は使用権を有せざるに至つたものというべく、しかも既に所有権を有せざる被告国に対し原告が使用権を有することの確認を求めることも筋違いで失当といわねばならない。

(ろ)  被告虚空蔵の答弁

(一) 原告の主張の(一)の事実は認める。

(二) 原告主張の(二)の事実については、原告主張の各土地がそれぞれ国有となりいわゆる上地されたことは認めるが、それは原告主張の明治八年地租改正事務局議定地所処分仮規則等によるのではなく、明治七年十一月七日太政官布告第百二十号によるものである。

(三) 原告主張の(三)の事実については国有となつた時期についてはこれを争うが、前叙のように右各土地が国有となると同時に原告及び被告虚空蔵においてそれぞれ前者は宿通一番、後者は宿通八番、真砂山四番の土地を国から無償貸付を受けたことは認める。但しその地域及び昭和二年、同三年の境界査定に関する原告の主張事実は否認する。

(四) 原告主張の(四)の事実は認める。原告及び被告虚空蔵の各境内地の範囲についての原告の主張は否認すること前記の通りであり、又無償貸付の関係は旧国有財産法の施行前から存していたものであり、同法第二十四条第一項は右の関係を明確にし、且つその範囲を従来引続き使用してきたものに限定する趣旨において調整したものである。

(五) 原告主張の(五)の事実中係争地が無償貸付の対象たること及びこれに対する原告の使用が継続しているとの点を除きその他は認める。

(六) 原告主張の(六)の事実中、本件係争地につき原告がかつて使用権を有し今なお存続しているとの点は否認するが、その余は認める。

(七) 原告主張の(七)1の事実中前段については被告虚空蔵が原告主張の地域にその主張の記念碑等をその主張の頃設置したことは認める。但しそれは被告虚空蔵が使用権を有していた土地であり、何等原告の土地使用権を侵害したわけではない。後段は認める。同2の事実は不知。

(八) 本件係争地は古くより(おそくとも文明十七年、西暦千四百八十六年より)引き続き被告虚空蔵が境内地の一部として使用してきたものであり、その現状をみても古くより被告虚空蔵が使用していたことは十分うかがわれる。すなわち右地域は明治七年太政官布告第百二十号により国有となると同時に被告虚空蔵が国から無償貸付を受けたものであり、旧国有財産法(大正十年法律第四十三号)の施行により、従前から引き続き被告虚空蔵が使用してきたものとして、右無償貸付の関係を明確にされたものである。殊に昭和十七年土地官民有区分査定が行われ、原告大神宮参道との境界も右査定処分により本件係争地が被告虚空蔵の境内地に含まれるものとして確定されたものである。従つて本件係争地についてはこの査定処分確定以後は原告の無償借受地ではなくなつているわけである。昭和二十一年二月二日原告はその境内地について国との間に無償貸付の関係があることが明確にされたけれども、本件係争地の如く既に被告虚空蔵に対する貸付地と確定している地域について原告が国から無償貸付を受け得る道理はない。

(九) そもそも昭和二十二年法律第五十三号第一条にもとずき社寺等が無償譲与の申請をし、それが許容せられた場合を除き、無償貸付の基本法たる旧国有財産法第二十四条は昭和二十二年五月二日限り廃止されたのであるから、社寺等が境内地等につき無償譲与の申請をしている間は一応無償貸付の関係は存続してはいるが、その申請が却下された場合には昭和二十二年五月二日に遡つて国との間の無償貸付の関係は存しなかつたことになるのである。

而して、原告はかねて本件係争地を含め大蔵大臣に対し境内地として無償譲与の申請をしていたところ、昭和二十七年四月十五日附でその申請は却下せられ、却つて本件係争地(競合申請の部分)は字宿通八番の一部同番の一字真砂山四番の土地の一部として昭和二十七年四月十五日附で被告虚空蔵に対する譲与処分がなされ、原告並びに被告虚空蔵に対する各処分の書面は同年五月三日原告並びに被告虚空蔵に送達された。そして同年五月十六日譲与による所有権移転登記手続も履践された。従つて右地域について仮に原告が無償貸付を受けていたのとしても、その貸付の関係は昭和二十二年五月二日に遡つて消滅したものといわなければならない。故にこの無償貸付の関係が存在していることを前提とする原告の請求は失当である。

三、被告国の答弁(八)及び被告虚空蔵の答弁(九)に対する原告の陳述

原告の譲与申請は本件係争地については容れられなかつたけれども、被告虚空蔵に対し宿通八番の一として譲与された部分については原告の譲与申請が無条件に却下されたのではなく、被告虚空蔵に対する譲与処分につき、本訴において原告の上地した地域であることが確認された場合にはその譲与を取り消すものとする旨の条件が附されている関係上、原告に対する却下処分も右原告の上地した事実が確認されれば却下を取り消すものとする旨の条件が附されているものと解せられる。のみならず係争地に関する譲与許否の処分に対しては法定の期間内に行政訴訟を提起したのであり、未だ譲与許否の処分は確定していないのである。而して昭和二十二年法律第五十三号第一条の趣旨は社寺上地地租改正又は寄附等によつて国有となつたものについてはその既往の権利を考慮してこれを返還する趣旨を明らかにし、従来種々の沿革から国家と社寺等との間に存在した財産上の特殊関係を断絶せしめるにある。そして右の規定によつて譲与の申請がなされ、これに対する許否の処分が確定し、前記の財産上の特殊関係が断絶するまでには相当の年月を必要とするのであるが、それまでには同法施行後も従前の無償貸付の関係を認めたのが同法第十条第三項の法意である。そして原告及び被告虚空蔵の各申請に対する譲与許否の処分が未だ確定していないこと前記の通りであるから、原告の無償貸付による使用権は未だ消滅していない。

四、原告の右主張に対する被告虚空蔵の反駁

被告虚空蔵の譲与申請に対し本件係争地のうち宿通八番の一として譲与の許可された地域について、原告主張の条件が附せられて譲与許可処分がなされたことは事実である。しかし右の条件は無効である。すなわち被告虚空蔵が宿通八番の土地として譲与申請をしたのは土地台帳附図に八番と表示されている地域全体についてであるが、これに対して財務局長はそのうち本件係争地の一部のみを八番の一として譲与を認め、前記の様な条件を附したものであり、しかもその地域は許可書によつては明確でないから、条件の附されている八番の一とは如何なる地域なりや明確でないことになるのみならず、被告国は従来係争地は虚空蔵の境内地であると主張してきたのに、国の機関たる行政庁が前記のような条件附の行政処分をしたことはその間に矛盾があるのであつて、いずれにしても前記条件は無効であり結局無条件の譲与といわなければならない。

五、更に原告の反駁

右条件が無効であるとの見解は正当でないが、仮に被告虚空蔵の申請に対する譲与処分に右のような瑕疵があるとすれば、その条件は譲与処分の要素に関するものであるから、該処分全体として無効たるべきものであり、被告虚空蔵が右譲与処分により本件係争地の所有権を取得したことにはならない。

第三立証省略

三、理  由

原告及び被告虚空蔵がいずれも宗教法人であること、茨城県那珂郡村松村大字村松字宿通一番の土地が原告大神宮から、同字八番及び同大字字真砂山四番の土地が被告虚空蔵から、それぞれ明治初年頃国に上地せられ国有財産となつた土地であり、昭和二十二年法律第五十三号寺院等に無償にて貸付しある国有財産の処分に関する法律を改正する法律の施行せられた昭和二十二年五月二日当時に、原告及び被告虚空蔵がそれぞれ国有財産法(前記昭和二十二年法律第五十三号による改正前のもの、以下旧国有財産法と称する)第二十四条第一項の規定により、被告国から無償で貸付を受けたものとみなされる関係にあつたことは当時者間に争がない。

原告はその主張の(わ)(り)(ぬ)(るノ一)(るノ二)(をノ一)(をノ二)線と(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)線とによつて囲まれる部分すなわち本件係争地は右宿通一番の土地の一部であつて、宿通一番の土地のうちその余の部分とともに、昭和二十二年法律第五十三号にもとずき、同法所定の期間内に大蔵大臣宛譲与申請をしたところ、係争地については、その一部は無条件で他の一部は条件附で却下されたが、その処分はいまだ終局的に確定していないのだから、前記法律第五十三号附則第十条により、原告は旧国有財産法第二十四条第一項にもとずく無償借受の関係をなお保有するものであると主張するので、まず旧国有財産法第二十四条と前記昭和二十二年法律第五十三号第九条、第十条との関係について考えてみる。

旧国有財産法第二十四条第一項は「従前ヨリ引続キ神社寺院又ハ仏堂ノ用ニ供スル雑種財産ハ勅令ノ定ムル所ニヨリソノ用ニ供スル間無償ニテ之ヲ当該神社寺院又ハ仏堂ニ貸付シタルモノト看做ス」と規定していたところ、昭和二十二年法律第五十三号はその附則第九条において旧国有財産法の一部を改正し、同二十四条を削除することとしたそして右法律第五十三号は、その第一条第一項において、「社寺上地(中略)によつて国有となつた国有財産でこの法律施行の際現に神社寺院又は教会(以下社寺等という)に対し国有財産法によつて無償で貸し付けてあるもの(中略)のうち、その社寺等の宗教活動を行うのに必要なものは、その社寺等において、この法律施行後一年内に申請したときは」主務大臣が所定の諮問手続を経て、これをその社寺等に無償譲与することができる旨を、同第二条第一項において、同法施行の際現に国有財産法によつて社寺等に無償で貸し付けてある国有財産で前条第一項の規定による譲与をしないもののうち、その社寺等の宗教活動を行うのに必要なものは、同条同項の申請をしたものについては譲与をしないことの決定通知を受けた日から六カ月以内に、その他のものについては、同法施行の日から一年内に、それぞれ売払の申請をしたときにかぎり、主務大臣において所定の諮問手続を経て、時価の半額で、随意契約によつてこれをその社寺等に売り払うことができる旨を、同第五条第一項において前記第一条第一項、第二条第一項に規定する従前の土地の換地等につきその譲与並びに売払をなし得る場合をそれぞれ規定し、附則第十条第三項において、「第一条第一項、第二条第一項又は第五条第一項の規定によつて譲与又は売払をすることに決定したものについては、国有財産法第二十四条の規定は、前条の規定にかかわらず、その譲与又は売払の日まで、なおその効力を有する」と規定しているのである。

いまこれらの規定をその文面のみからみれば、昭和二十二年五月二日前記法律第五十三号の施行とともに旧国有財産法第二十四条の規定はその効力を失い、同条第一項による国と社寺等との無償貸付の関係は消滅し、社寺等は従来無償借受地として占有使用してきた土地につき、爾後無権原で占有使用することになるが、所定の手続を経て譲与又は売払の許可を受けた場合には、法律第五十三号の日から譲与又は売払決定の日まで旧国有財産法第二十四条第一項の効力が存続していたこととなり、無権原で右土地を占有してきたものでないものとして扱われるのだと解すべきもののようにみえる。しかしながら、他面全国数多の社寺等が多年宗教活動を行うのに使用してきた土地(その大部分は譲与又は売払の処分を受け得べきものと思われる)につき、一挙にその占有使用の権原をなくしてしまうことは、いかにも不都合なことといわねばならぬし、(殊に譲与又は売払の申請期間が法律第五十三号施行後一年内とせられ、その後譲与又は売払の許否についての行政庁の処分があるまでは相当の日時を要することは当然予想せられていたであろうことを考えればなおさらのことである)昭和二十二年五月一日公布の大蔵省令第四十六号(前記法律第五十三号施行の日から施行)第六条によれば、社寺等において法第一条第一項又は法第二条第一項の規定によつて譲与又は売払を受けようとする土地について、建物又は工作物を建設しようとするとき、現状を著しく変更しようとするときもしくは耕作の目的で使用しようとするときは、大蔵大臣の許可を受けなければならない旨を規定しているところからみると、その反対解釈として従前どおりの方法で使用することは当然許されているものと考えなければならないことと照し合してみると、前記のような解釈は採用しがたく、むしろ前記法律第五十三号附則第十条第三項の規定は、譲与又は売払の申請のなされている土地については、譲与売払(後記のように両者ともに認容されなかつた場合を指す)をしないことに決定されるまでは、なお旧国有財産法第二十四条の規定の効力が存続し、右不許可の決定があつたときにはじめて、昭和二十二年五月二日にさかのぼつて旧国有財産法第二十四条の効力が消滅し、右日時以降社寺等は当該土地を無権原で占有使用してきたことになるものと解するのが相当である。そして、旧国有財産法第二十四条第一項による無償貸付の関係が消滅する時期については、前記法律第五十三号第二条第一、二項との関係において、更に考慮を要するものがある。すなわち右第二条第一項は、前記のように譲与申請を却下された者がその決定通知を受けた日から六カ月以内に売払の申請をする場合とはじめから売払申請をする場合とを認め、更に同条第二項において、譲与申請を却下された者が訴願をした場合には、原決定がなされてから六カ月を経過した後でも裁決書受領の日から三カ月内に売払の申請をなし得る旨規定しているのであるから、譲与申請につき却下処分を受けても、訴願期間が経過するまでは、なお無償貸付の関係が存続し、訴願を提起した場合にはそれを認容しない裁決がなされても、売払の申請をなし得る期間内はなお右関係が存続し、売払申請をした場合にあつては、その申請が却下されてはじめて右関係が消滅するに至るものと解すべきである。

原告は、右譲与又は売払の申請を認容しない行政庁の処分(訴願の裁決をも含めて)があつても、行政訴訟の出訴期間が経過するまで、行政訴訟が提起された場合にはその判決が確定するまでは右の関係はなお存続するものと解すべき旨主張するけれども、およそ行政庁がある行政処分をしたときに一定の法律関係が発生変更又は消滅すべき旨を規定している場合には特に反対の趣旨に解すべき場合の外は、当該処分庁の行政処分がなされたときに右の法律関係の変動を生ずるものと解すべきであり、(譲与申請の却下処分によつては直ちに無償貸付の関係が消滅しないと解したのは法律第五十三号第二条第一、二項の規定にもとずくのである。)憲法第二十条第一項後段の趣旨からしても、社寺等に対する国の無償貸付関係は可及的速かに清算せらるべきことが要請せられるわけであり、譲与並びに売払についての行政庁の判断を経る以前と異り、既に行政庁において売払申請までも却下すべきものとした以上、その後に至るも無償貸付の関係が存続するものとするのは妥当ではない。売払申請の却下処分に対する訴願又は譲与若しくは売払の却下処分に対する行政訴訟において、処分庁若しくは裁決庁の処分が取り消されたときは、再び無償貸付の関係が復活することになり、権利関係の再度の変更を認めることになるけれども、これはやむを得ないことといわねばならない。

さて本件についてみるに、原告の主張によれば、原告が大蔵大臣宛でした宿通一番の土地についての譲与申請は、本件係争地を除外した部分についてのみ認容せられ、係争地については認容せられず、これに対する訴願もまた棄却せられたというのであり、原告が更に法定の期間内に売払の申請をしたことについては何らの主張も立証もないのである。原告は係争地の一部すなわち被告虚空蔵に対し宿通八番の一として譲与された地域については、被告虚空蔵に対する譲与処分が、本件において原告の上地にかかる地域なることが確認された場合には該処分を取り消すものとする旨の条件が附せられているから、原告に対する譲与申請却下処分についても同様の条件が附せられているものと解すべき旨主張するけれども、被告虚空蔵に対する譲与が取り消されても、これを原告に譲与すべきか否かは更に別途に考慮を要する問題であり、被告虚空蔵に対する譲与処分に前記のような条件が附せられているからといつて、そのことから当然に、原告に対する処分につき原告主張のような条件が黙示的に附せられていると解すべきものではない。

しからば、仮に本件係争地が原告主張の宿通一番の土地の一部として、従来被告国との間に旧国有財産法第二十四条第一項の規定にもとずく無償貸付の目的となつていたものとしても、前記のような理由により、原告が訴願棄却の裁決書の送達を受けた日であること当事者間に争のない昭和二十七年九月二十三日から三カ月後である同年十二月二十三日の経過とともにその無償貸付の関係は昭和二十二年五月二日にさかのぼつて消滅するに至つたものというべきであり、これと反する見地に立つ本訴請求は爾余の判断をまつまでもなく右の点について既に失当であるといわなければならない。

よつて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十四条を適用し、主文のとおり判決をする。

(裁判官 多田貞治 服部一雄 高井清次)

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